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理事長挨拶

理事長挨拶

 わが国の世界における経済的な地位は相対的に低下し続けており,このような状況からの反転はまったく構想することができていない。このような現象の背景には人口の急速な縮小があり,またその要因の1つは少子化である。高齢化や過疎化は受容するしかなく,これ自体を問題視してもあまり意味がないと考えられる。

 このような状況において,われわれは本全国大会のテーマである「地域のサステナビリティ」を構想することになったわけである。そうなると,地方分権や移住促進により地方に活気を与えるというようなまさにデザインなき既存エリア単位での復活指向の対応では,日本の先進国の中では低いグローバルなポジションから抜け出すことはできない。

 これは,エリア発想から地域を考えてもコンテクスト転換が現出しないということを示しており,ゾーンの観点からエリアとは異なった方法で地域価値発現をすることによって,日本全体の浮上を構想すべきなのである。つまり,戦略としてのゾーニングが不可欠になるわけである。そうなると,消滅に向かうであろう地方をこのまま残そうとして,いつなくなるかわからない補助金で延命させようとする戦略では国家そのものが滅亡してしまうことになる。

 それに,多くの地方では子供が消えつつあり,そのような地方の永続性を単純に指向するのはあまりにも経済的な負担が大きく,地方では収入が少なくても幸福な暮らしが入手できると嘯いてみたところで,実際にはそのような人々が生活する地域は消滅するか,援助によって細々と生きながらえるだけである。言い換えれば,成長を否定するような人々が集まる地域の多くは国家の足を引っ張る存在にしかならないことになる。それゆえ,このような方向での地域のサステナビリティは決して追求してはならないのである。

 国家単位で捉えれば,価値発現を可能する人材は消滅可能性が高い地域にはさほど必要ないし,また彼らはこのような地域ではハッピーに暮らせないのは自明である。少なくとも,交付金だけが収入である人材が地域価値の発現という困難な課題に向き合うには問題があるだろう。つまり,地域をプロデュースする人間にはハイインテリジェンスかつハイインカムの人を柱に据えないと大きな現状変更は難しいと考えるべきである。

 まずは,現在のいささか暗い今後の展望に何らかの歯止めをかけることが必要となる。本大会では,特に地域のサステナビリティを統一テーマに設定することによって,わが国の明るいとはいえない未来に対する何らかのコンテクスト転換を模索することが期待されている。ここでわれわれが考える地域のサステナビリティとは,新たな成長のための論理を考えることではなく,まずはそのようなことが考えられる状況を構想することになってくる。

 当然だが,リスク対応を例外とすれば,生産性の観点から東京一極集中が望ましくないとか,地方分権を行い地域の再生を図るべきであるというような建前や,ふるさとノスタルジー指向での地域のサステナビリティを追求することは主たる目的ではない。これについては学会の方針になるが,地域のデザインにおいては,地域の展望を描くのではなく,ゾーンオリエンティッドでのデザインで地域の展望を考えることになる。われわれは日本の衰退を食い止めるために地域戦略を展開するのであり,過疎化された地域を延命するために地域戦略を展開するのではないからである。

 さて,新型コロナウィルス感染症の蔓延によってテレワークが定着し,外部化されていた家庭の活動の内部化が起こり,これによって地方の価値が増大するという考え方も浮上している。しかし,よく考えれば,十分といえるだけの仕事環境を整備できる人はテレワークのための担い手にはならないし,また業績が急速に低迷する企業にとってテレワーク人材は業務委託予備軍になる。

 また,狭い生活の場で仕事が行われるのだから仕事への集中が困難になることは自明であり,会社サイドから個人生活までが監視されるようにもなる。会社は社員がどこにいても何をしているかが完全に掌握できるのだから,出来高に依拠した業務委託に転換されることは明白であろう。また,売り上げが減れば,コストは削減するのが当然だから,多くの社員を削減することは会社にとって適切な対応になるわけである。

 さらに言えば,在京の現在のテレワーク社員のほとんどはクリエイティブクラスではなくサービスクラスなのだから,そもそも彼らは有能な地域プロデューサーには不向きな人間であるとも考えられる。これは,テレワーク人材がいくら集まっても地域価値の発現はできないことを示していよう。

 本来は,このようなテレワークとは高度プロフェッショナルが高額の収入を得るために選択する高付加価値志向のワークスタイルである。こう考えると,大企業のテレワーク社員は早期に新たなキャリアプランを描くことが要請されていることになる。

 今回は大学でのリアルな全国大会の開催は困難であると考えたため,大会実行委員長の青木先生のお力で東銀座にある(株)博展本社においてリアル・バーチャル統合型という新たな形態でのイベント開催に行きつくことができた。今回は主催校なしの大会実行委員会による大会運営への挑戦が行われている。なお,会場の確保においては,本学会会員である(株)博展の鈴木紳介氏のお力添えに大いに感謝の意を表したい。

 

2020年8月吉日

理事長・大会委員長 原田 保

 

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