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実行委員長挨拶

大会に寄せて

2012年に設立された地域デザイン学会は、昨年、十年の佳節を迎え、更なる十年に向けての歩みを踏み始めた。本学会の今後の課題を検討する上で、本学会と同様に文理融合にして学際的研究領域として立ち上がった研究領域の軌跡を垣間見ることは有益であろう。ここでは、情報システム研究の黎明期に目を向けてみたい。

情報システム研究は、その黎明期から自らの立ち位置の設定に苦悶していた。端的に言えば、「テーマ研究」か「学問領域」か、という問いに答え倦ねていたのである。そこに1人の救世主が現れた。彼は、暗く淀んだ学界の前途に、一筋の光明をもたらした。それは、当時、MITに在籍していたピーター・キーン、その人である。彼は、情報システム研究は、その研究対象を「組織活動の中で活用される情報システム」とするものの、独自の方法論や構成概念を持ち得ていないと指摘した。つまり、当時は、未だ独自の学問領域となり得ていないと喝破したのだ。かくて、彼は、独自の学問領域たり得るためには、既存の学問領域から構成概念を援用せざるを得ないこと、そして専門誌を発刊し、そこで研究成果を精力的に蓄積していることが重要であると主張した。彼は、前者の試みを「参照学問領域」、後者のそれを「累積的伝統」と呼んだ。

地域デザイン学会においても、草創期の課題は、「参照学問領域の確立」と「累積的伝統の構築」が重要な課題であったと言えよう。

そもそも本学会の問題意識は「地域をデザインすること」の背後に見え隠れする論理を明らかにすることにある。そのために、関連諸科学から鍵となる構成概念を援用して「地域をデザインすること」の特徴を切り出してきた(参照学問領域の獲得)。そして、改めて言うまでもなく、その中から、本学会の独自に着眼点というべき「ZTCAデザインモデル」が生まれてきた。他方、数多のフォーラムや地域部会、十度に及ぶ全国大会での議論を経て、学会誌に多くの論考が蓄積されている(累積的伝統の構築)。かくて、地域デザイン学は、朧気ながらも、その輪郭が浮き彫りになりつつある。言葉を換えれば、黎明期の情報システム研究の課題を本学会は着実かつ真摯に取り組んできたと言えるのだ。

愈々、本学会は、地域デザイン学の確立に向けた第2段階に歩みを進めようとしている。

それは、本大会の研究発表統一論題に示されたような「地域デザインモデルの多様な活用」に他ならない。そのためには、既に提唱されたZTCAデザインモデルを叩き台として、改良された多くの地域デザインモデルが提唱される必要がある。本大会の議論が、地域デザインの新たな知見を紡ぎ出すための手がかりとなることを期待したい。

 

2022年7月吉日

第11回全国大会実行委員会

委員長 古賀 広志

 

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